廣福護国禅寺の大仏頂万行首楞厳神咒図は、仏教禅宗の重要な教典を文章・図で表現した仏教版画です。佐賀県内に現存する仏教版画の中でも最古級のものであり、九州でも古い部類に入ります。

 この神咒図は文字・図を彫り込んだ版木の上に紙を載せ、写しとる「摺仏」(すりぶつ)と呼ばれる技法で作られた仏教版画で、本紙の大きさは縦80.5p×横39.5pと大型で、現在、表装されて掛軸となっています。

 画面は3つの部分に割れられ、上段は長方形の紙面の最上部に表題があり、その下には多くの仏たち・弟子たちに囲まれた釈迦如来に教えを乞う弟子阿難の様子が図案化されています。中段では、経典の内容が系統図を用いて円形状の図面一杯に文字で記されており、下段は中央に壇と呼ばれるテーブルを囲んだ如来・菩薩・明王・天が描かれた図、その両側に経典に関する文面とこの版画の情報が配置されています。

 なお、左下に記載された情報は「永禄龍集戊午夏六月如意珠日 本朝薩州加世田庄保泉禅寺大仙叟重刊」という内容で、永禄元年[1558]6月、薩州加世田(現在の鹿児島県南さつま市)保泉禅寺によって再度刊行されたものだということがわかります。

 日本の仏教版画は歴史が奈良時代に始まり、鎌倉時代以降、庶民の勧進供養、追善供養に用いられ、祈祷・魔除け・御守りとして制作されるようになります。この神咒図もそのような目的で作られたものと考えられます。

 この神咒図は、紙面の中に非常に多くの仏たちが非常に細かな部分まで表現されていることに加え、経典の内容も細かい文字にて体系的に記載されており、版画として造形的に高い価値を有しています。

 加えて、仏教版画が地方でも制作されるようになり、紙面が大型化し、経典とその内容を補足する図が同一紙面のなかに刷られるようになった室町時代後期の版画そのものの美を追求した特徴をよく残しています。そのため、仏教版画・仏教美術・仏教史を研究する上で、極めて貴重な資料です。

 また制作年代・制作場所・制作者とこの版画に関する制作情報が明確であり、所蔵が武雄領主と結びつきのあった地域の有力寺院廣福護国禅寺であることから、当時の地域・寺院間の交流の歴史を研究する上でも重要な資料です。

大仏頂万行首楞厳神咒図
【大仏頂万行首楞厳神咒図】