平成20年度 武雄市図書館・歴史資料館ミニ企画展

武雄の科学技術

 文化5年(1808)、イギリス軍艦フェートン号の長崎における暴挙に全く対処できなかった、いわゆるフェートン号事件に、佐賀藩の一領であり、長崎警備の一端を担っていた武雄は深刻な衝撃を受け、海防政策・軍備強化を計る必要姓を痛感。その後、蘭学、殊に軍学への関心を深めました。
 西洋の進んだ武器や軍学を取り入れ実用に供するということは、その基礎を成す西洋の科学を学ぶことに他なりません。武雄には、多くの人々が西洋科学の摂取に取り組んだことを示す文書類や、理化学実験等に用いられたと思われる器具や薬品が残されています。当時は、西洋の情報を受け入れる窓口は極めて限られており、参考とする蘭書の選別や翻訳なども自ら行わざるを得ないのが現状でした。今回の展示を通じ、厳しい状況下で、懸命に新しい知識を会得しようと試みた人々の努力の一端を感じて頂ければと思います。

 下に、展示品の一部をご紹介します。
 

場所:蘭学館ミニ展示コーナー(観覧無料)
期日:平成20年5月16日(金)〜8月20日(水)

 
イペイ 大系化学の理論と実践
   
 

『イペイ 大系化学の理論と実践』

1804年〜1812年 武雄鍋島家資料

 オランダのフラーネケル大学元教授アドルフ・イペイ(1749〜1820)がイギリスの化学者ウィリアム・ヘンリーの化学入門書をもとに編纂した。本編5冊、増補付録編3冊、索引1冊の9冊からなる。全巻に赤通しが多数つけられている。武雄鍋島家旧蔵の文書である「西洋原書簿」に「ヱペイ 原箱入 九冊」とある。同じく武雄鍋島家旧蔵に「淨天様御手許御書物帳」には「金属ノ部 ヱペイ抜粋」という記述がある。

 
   
 
   
 

『エペイ目録訳書』

19世紀中期 武雄鍋島家資料

 上記『イペイ 大系化学の理論と実践』の別冊索引の翻訳であるが、全3冊のうち第3冊は伝わらない。武雄鍋島家旧蔵の文書である「長崎方控」天保9(1838)年2月7日の項目で、長崎からの取寄せ品の中に「ヱペイ訳書」とあるのは、本書の可能性が高い。

 
   
エペイ目録訳書
 
ホクトメートルと試験管
   
 

 『ホクトメートルと試験管』

19世紀中期 オランダ製 武雄鍋島家資料

 ホクトメートルは、液体の比重を計るための浮き秤のことである。このホクトメートルは比重計と温度計が一体化されており、比重目盛りと温度目盛りが刻んである珍しいタイプである。日本でも、酒の発酵状況を知るために「酒暖計」「験液器」等の呼び方で国産化されている。当時の武雄では、盛んに薬品が購入され、化学実験が行われており、それらの実験にホクトメートルは欠かせないもので、「長崎方控」にたびたび注文の記述が出てくる。
 この箱には、元々は試験管と2つのホクトメートルが納められていたものと思われる。

 
   
 
   
 

『塩素酸カリウム入り壷』

19世紀 武雄鍋島家資料

 塩素酸カリウムは1786年にフランスで発見された。有機物の燃焼を助長するため、マッチや花火の火薬製造に利用された。これを用いることで、硝酸カリウムを用いた従来の黒色火薬より燃焼温度が上がり、金属の炎色反応による花火の色彩が自由に出せるようになった。明治初期に輸入され始め日本の花火を飛躍的に発展させたとされるが、武雄ではそれ以前に導入されていた可能性がある。ただし、爆発の危険性が高く、大砲等の火薬にはあまり適していない。
 この塩素酸カリウムはイギリス製(1867〜1870年頃カ?)だが、封は切られぬままである。

 
   
塩素酸カリウム入り壷
 
薬品用ガラス瓶
   
 

『薬品用ガラス瓶』

19世紀前期 武雄鍋島家資料

 未開封で、中には薬品が入ったままの状態のものもある。武雄には、まだこうした瓶入りの薬品が多く残っている。「長崎方控」中の記述でも、かなりの種類と量の薬品を購入していたことが知られるため、薬品瓶は、それらの内、残されたもののいくつかであろう。

 
   
 

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