平成25年度 武雄市図書館・歴史資料館特別企画展

九州の蘭学 武雄の蘭学

 16世紀中頃からの南蛮貿易に伴い西洋から伝えられた科学・技術の広がりは、キリスト教を禁じる慶長17(1612)年の禁教令や寛永16(1639)年の南蛮(ポルトガル)船入港禁止により抑圧されました。
 しかしながら、八代将軍吉宗によって蘭書の輸入制限が緩和され、実学の摂取が進められるなか、安永3(1774)年の「解体新書」の訳述刊行により、新たに「蘭学」という言葉が生まれました。文化8(1811)年には、幕府自らも蘭書の翻訳を専門に担当する部局、蛮書和解御用を設けて「蘭学」の研究に乗り出しています。
 幕府が正式に実学としての「蘭学」を容認する少し前から、特に西国大名の中に、西洋の文物に興味を抱き、これを取り入れようとする者たちが現れました。平戸藩主松浦静山、薩摩藩主島津重蒙、熊本藩主細川重賢、福岡藩主黒田斉清、豊前中津藩主奥平昌鹿、また佐賀藩主鍋島直正など、いわゆる「蘭癖大名」と呼ばれる人たちです。
 武雄でも28代領主鍋島茂義を中心として、天保年間(1830〜44)から蘭学の導入が進められ、多くの文物がもたらされるとともに、さまざまな取り組みも開始されました。
 江戸時代、西洋に開かれた唯一の戸口である長崎に近いという、地理的に恵まれた九州の地で、どのような蘭学導入の動きが見られたのかを眺める展示を行います。
 

場所:蘭学・企画展示室(観覧無料)
期日:平成26年2月1日(土)〜3月16日(日)
担当学芸員のギャリートークは、
2月11日(火)・23日(日)・3月8日(土):いずれも13:30〜


展示物の一部を下に紹介します。
(期間中、展示されていない場合があります)
   

長崎図

   
 
 

長崎図

Dheulland刻 1752年 武雄市蔵

 1752年にフランス・パリで出版されたプレヴォー編『旅行記集成』第10巻のケンペル『日本紀行』に折り図として収められた銅版地図。「PLAN DU PORT ET DE LA VILLE DE NANGASAKI」(長崎の港と町の図)と題される。「オランダ人居住地」とする「Desima(出島)」を中心として港と市街地が描かれている。「将軍告示掲示所」「奉行居住地」「中国人居住地」「大砲、爆薬格納庫」などが記され、また、高鉾島は「Papemberg(Papenberg=殉教聖職者の山)」とある。湾の両側には警備兵が配置された。西泊・戸町両番所も描かれており、戸町番所の側には「7700名の政府軍警備隊詰所」と記されている。

 
 
 

シーボルト像
   
 

シーボルト像(部分)

武雄市蔵

 画面右下に「文政六年来朝のシーボルト像」と記される。ドイツ人医師フィリップ・フォン・シーボルト(1796〜1866)は、文政6(1823)年、27歳で出島の商館医として最初の来日をした。画像は、その当時のシーボルトの姿を写したものと思われる。作者は不明だが、全体の構造から、シーボルトによって見出され活躍した川原慶賀が描いた「若き日のシーボルトとその下僕図」(長崎歴史文化博物館蔵)を真似たものと思われる。文政9(1826)年2月、シーボルトは、時のオランダ商館長の江戸参府に同行、武雄を訪れ、武雄温泉や、嬉野にあった大楠などをスケッチさせている。

 
   
 
   
 

藍絵花卉文蓋付大皿

オランダ・ぺトルス・レグー窯 19世紀
武雄鍋島家資料 武雄市蔵

 プリントウェアの蓋付大皿。底部銘の「P.R」は、オランダ・マーストリヒトのぺトルス・レグーが創業した窯のプリントマークで、1850年代〜80年代に使用されたもの。裏銘に「P.RAUROREA」とあり、花卉文は「オーロレア」という花柄のパターンでギリシャ神話の曙の女神であるオーロレアの持物に由来する。オランダ陶磁器産業の近代化を進めたレグー窯は、日本向けの商品も積極的に製造・輸出したことで知られる。箱書は、「長崎方控」四の「注文到来留(到来品)」安政2 (1855) 年10月6日条に「染付蓋物 弐ツ大」とあることと符合し、伝来の時期が確実な資料である。箱蓋墨書にも「卯舶来阿蘭陀焼蓋物」と記される。

 
   
藍絵花卉文蓋付大皿
 
測量器具
   
 

測量器具

金子吉兵衛作 19世紀中期
武雄鍋島家資料 武雄市蔵

 大方儀・中方儀などの測量器の角度の測定部分。「Negende jaar van Tenpo Kaneko Kitibij(天保九年金子吉兵衛)」の刻銘があり、長崎新大工町の細工師金子吉兵衛の製作と思われる。「長崎方控」二の天保9(1839)年の注文品に「丁見台」(測量台)のことが見え、翌10年にも「吉兵衛作之丁見台」「金子吉兵衛へ申付置候丁見台并道具」とあるのはこれと思われる。

 
   
 

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