御船山

金子吉兵衛(かねこきちべえ) (生没年未詳)


キリシテル


 キリシテル (武雄鍋島家資料 武雄市蔵)

 長崎の金物職人。長崎の研究家の間では知られていなかったが、武雄領主鍋島茂義の買い物帳「長崎方控」の中にしばしばその名が登場する。
 江戸時代後期、武雄は長崎貿易を通じて、海外から大量の珍しい物品を購入した。しかし、時計・オルゴールなどの精密機器は、修理や改造の必要に迫られる場合が多く、その場合は長崎在住の職人金子吉兵衛に依頼された。実際、武雄に残るオルゴール時計は、フランス製であるが、日本の時刻に対応できるように「九ツ」から「四ツ」までの数字が刻まれた文字板に仕替えられ、針も一本に改造されている。さらに、測量具である「半円儀」や、馬の健康管理に利用されたと思われる「キリシテル」(浣腸器)には、「K.Kitsibe」の銘が刻まれ、「長崎方控」1844(天保15)年11月の吉兵衛への注文品中に、「絵図引用半円」「大キリステル」と記載されるものとの関係を推察できる。また、武雄から吉兵衛に対しては「夜学燈」(ランプ)のホヤや「寒熱昇降棹」(寒暖計)の管の注文もなされており、吉兵衛はほとんど武雄専属の職人として、その受け持ちも金物細工だけにはとどまらなかったようだ。
 日本人持ち前の手先の器用さから、細工師の腕の良さは更めて論ずる必要もないが、吉兵衛のような例からも、海外の珍しい製品を手にする作業のなかで、日本のモノづくり職人の技術は、単なる西洋の模倣に終わらず、日本の風土とともにいっそうの進化を遂げながら、今日の生活文化の基盤を築くことになった。

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