カタログから見えてくるもの



ガルハ焼入器

ガルハ焼入器(右)と『火術製薬備忘録』(左)

 武雄の蘭書の中に、一八六六年頃に刊行された『ネグレッチ及びザンブラ商会光学機械カタログ』があります。理科学実験器具、測量器具、写真機材等が紹介されています。
 「ネグレッチ及びザンブラ商会」は、ヘンリー・ネグレッティとジョセフ・ザンブラによって創立されたイギリスの会社です。世界初の万国博覧会であるロンドン万博(一八五一)で評判となったクリスタルパレスの写真を、独占的に撮影・販売したことで知られます。
 武雄には、ネグレッティ&ザンブラ社製のポケットセキスタント(携帯用六分儀)(注1)、ガルハ焼入器(注2)も残されています。ガルハ焼入器はマグネシウムのリボンを燃焼させる照明器具で、写真撮影用に用いられたと考えられます。
 ポケットセキスタントの購入時期は判りませんが、ガルハ焼入器は、記録(注3)から、慶応四年(一八六八)春に購入されたものと思われます。
 慶応四年頃に長崎の上野彦馬のもとで写真術を収めた武雄の家臣木々津又六の手紙(注4)にも、カメラのレンズや印画紙を「英(イギリス)に御注文相成り候儀」とする記述が見えます。
 武雄は、蘭書を購入する際、オランダ船が持ち込んだ本の目録等を参考に、必要なものを選択していたようです。『ネグレッチ及びザンブラ商会光学機械カタログ』も意図的に買い入れられ、当時最新のこのカタログによって、写真機材などを、注文・購入していたのではないかと推察されます。
 武雄における蘭学導入が、単なる物珍しさや好奇心ではなく、明確な目的意識をもってなされていたことの一つの証しといえるでしょう。

※注1 「武雄鍋島家歴史資料目録(後編)」ロ−17
※注2 「武雄鍋島家歴史資料目録(後編)」ロ−13
※注3 『火術製薬備忘録』(「武雄鍋島家歴史資料目録(前編)」二−2−20)
※注4 『写真術必携験液器験温器』(「武雄鍋島家歴史資料目録(後編)」六−71)



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